オタゴン無法地帯

Vtuberオタゴンのブログです。動画にするほどじゃないけどツイートには長すぎることを書きます。

VRChatでVRレンタル彼女とデートした話

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23歳なのに痛風になってしまった。

原因は暴飲暴食。ツイッターに暴食する写真をアップしたり、VRChatで自分のフレオンに引き籠って泥酔していると、中身が男性の美少女たちがみんな俺を心配してくれた。

それが、たまらなく気持ちよかった。

VRChatの中身が男性の美少女は、悩みを吐露して甘えるには最高の相手だった。外見は可愛い美少女だけど、中身は男だから緊張することもない。さらには女声やボイチェンの人もいて、声も可愛い。可愛さがありながら、女性相手よりよっぽど理不尽に泣きついても許される感じがする。俺が勝手にそう感じているだけで、寄り付かれた方はいい迷惑なのはわかっている。でもやめられない。

仕事で嫌なことがあっても、みんなが俺に同情の視線を向けてくれるだけで、疲れとかしがらみとか不安とか、色んなものが撹拌されて溶けていく気がした。

でも、満たされない気持ちもあった。

みんなVRChat内で恋人を作ったり、私は関係ないですという顔をしながら隠れてエロいことをしている。

俺はその輪に混ざれない。

VRに来てまでこんなリアルと同じ悩み方したくなかった。

俺がVRの中身が男性の美少女に構ってもらうには、カラムーチョにマヨネーズぶっかけた写真や、ストロングゼロの500の缶が3本並んだ写真SNSをアップロードするしかない。9%の酒が俺に優しい美少女を召喚してくれる。

こんな友達を利用するような真似をして、俺は最低だ。不幸を気取っているだけで、本当はずる賢くて卑小で醜悪な俺。そして23歳で痛風持ち!

こうして俺のVRChatは、夜ごとにホテルの狭い一室のワールドに閉じこもって、酒を飲んで愚痴を垂れるだけの最低な時間になっていった。夢に溢れる仮想世界の最悪な使い方。HMDを付けることすら稀になり、最近はデスクトップで入ることがほとんどになっていた。ベッドに寝転がって画面も見ず、酒を飲みながら眠る。それが俺のVRChat。 俺はただただ、VRChatで誰かと密に触れ合うことに飢えていた。

そんな時、俺はVRCレンタル彼女の存在を知った。

「この小さな、平べったい、いや、丸いかもしれないけれど、とにかく生まれついて死ぬまでへばりついていなければならない地面を離れて、未知に、永遠に向かって。外へ! 太陽系の中の塵の一片、宇宙の一原子にすぎないちっぽけな地球から、外へ!」

フレドリック・ブラウン「天の光はすべて星」より

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葛藤の末、俺はその場所で“彼女さん”を待っていた。

時刻は22時。DMで何回かやりとりをし、俺がインバイトを飛ばす約束になっていた。俺が「二人で話がしてみたい」と依頼したら、彼女さんは快く引き受けてくれた。VRCレンタル彼女では今のところ料金を取るということもなく、依頼はまるで友人同士の約束のようにするすると決まっていった。

待機していたワールドは、オーロラに包まれて宇宙を漂う湖のような場所だ。二人きりで話すには丁度いい広さで、控えめに輝く星空やひっそりと立ち並ぶ木々がどこか静謐な空気を感じさせる。いくつか彼女さんを迎えるためのワールドを血眼になって探した上で、この場所を選んだ。慣れないワールドに、久々のVRで俺は緊張していた。

俺はこれから、VR彼女と二人きりになる。

恋愛へのテンションを高めようと、銀杏BOYZの「ぽあだむ」を聴きながら彼女さんを待った。俺がいつも脳内に架空の彼女を思い浮かべる時に聴く歌だが、今日は違う。

 

俺には一つ、目標があった。

“VRCレンタル彼女に、頬にキスをしてもらう”

規約の書かれたnote( https://note.com/vrc_girlfriend/n/ne4a8d71ef8d8 )には「ちゅーはほっぺまで!」と明確に記されていた。

それは俺にとっての福音だった。ほっぺなら、アリなのである。

「ちゅーはほっぺまで!」

ああ、なんと甘美な響きなんだろう! 俺は“ほっぺ”に“ちゅー”がされてみたい!

しかし、そうなると一つ問題があった。

俺のアバターだ。

俺は普段、2m越えの怪獣のようなアバターを使っている。怪獣のアバターでキスをしてもらえるような雰囲気に持ち込むというのは、3分で12機のドムを撃墜しろと言われているようなものだ(困難であるということのたとえ)。美少女アバターもないわけではないので、ここは最初からそれを使うという選択肢もあった。

でも俺は、そうしなかった。それはなんだか、逃げているような気がした。

“オタゴン”である以上、例えレンタルであったとしても、彼女と呼ぶ人の前では俺は怪獣でなければならない。それが俺なのだから。手軽に美少女になっていちゃいちゃしようなんて軟弱な逃避を、俺はしない。

俺は怪獣、相手は美少女。俺はどんな時だって諦めないし、絶対に逃げもしない。

モビルスーツの性能の違いが、戦力の決定的差ではないということを教えてやる。

そうして意気込む俺の前に、彼女さんが現れた。

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「はじめまして~VRCレンタル彼女の人です!」

彼女がなんと言っていたかは、ここからはうろ覚えで書く形になってしまう。しかしその声の活発さに溢れた、無邪気な雰囲気のかわいらしさは忘れもしない。身長は想像よりも一回り小さく、外にハネた明るい茶髪と合わせて無邪気な子犬のような女の子だと感じた。好奇心を携えたピンク色の瞳で見上げられると、心臓を掴まれたようにドキリとしてしまう。少し落ち着きのない様子で揺れている立ち姿にも、自然体で素直なかわいさがあった。

そうして出会った瞬間、俺は早くも後悔していた。

彼女さんと俺のアバターの身長差が大きすぎる。俺がモビルスーツなら彼女さんはオーラバトラーといったところか。これでは彼女と顔や視線を近づけて会話するドキドキさが味わえない! 今すぐ怪獣のアバターをやめて美少女になりたいが、会って早々にそんなことを考えているのがバレればドン引きされるに違いない。もう引き返せない。後悔する時間はない。俺は戦うしかなかった。

挨拶を交わしながら、俺はどこかでそれっぽい言い訳を見つけて美少女のアバターになることを決意する。こんなことなら怪獣のアバターなんか最初から使わなければよかった。

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俺が決意に拳を握りしめていると、彼女さんの方が最初に話題を振ってくれた。

「実はオタゴンさんのこと、前から名前は知ってたんですよ~。それでどんな人なんだろうと思って、小説読ませてもらいました!」

「ええっ!?」

第一印象が最悪になってしまった。俺は自分がどんなものを固定ツイートにしていたかを忘れてしまっていた。

「文章上手ですね! すらすら読めちゃいました」

彼女さんが読んだ俺の小説とはVRChatを題材としたもので、簡単に言えば主人公が中身が男性の美少女に恋をしてオナニーを繰り返すというものだった。

せめて彼女さんと連絡を取る前に固定ツイートから外しておくべきだった。俺は取り返しのつかないことをしてしまった。彼女さんは無邪気に俺の文章や表現に感心したと言ってくれたが、罪の意識は重くのしかかる。

「お喋りでもワールド巡りでも、したいことあれば言ってくださいね。今日はたくさん遊びましょう!」

彼女さんはとても気の回る人で、今回のデートの間はずっと俺がどうしたいのかというのを最優先に考えてくれていた。俺はまず会話がしたいと伝え、最初になぜVRレンタル彼女を始めたのかについて聞いてみた。

「それ、毎回必ず聞かれるんですよ~」

彼女さんは元々VRCで一対一のコミュニケーションを取るのが好きで、そのために何をするか考えた結果レンタル彼女を始めたのだそうだ。彼女さんは縮こまるように恐縮し、予想以上の反響があったことへの驚きを語ってくれた。

「まさかこんなに反応あるなんて~ってびっくりしちゃいました」

正直に言えば、レンタル彼女という名前は現実において良い印象が持たれにくい言葉だ。だから過剰な反応をしてしまう人がいるというのもわかる。事実、俺もその存在を知った時は多いに動揺した。

「なんだかイメージより喋りやすくて安心しちゃいました。色々ツイートしてたから、偵察とか品定めみたいな感じで来られたらどうしようって……」

VRCレンタル彼女を知った時の俺のツイートはいくつか読まれていて、それが余計な警戒心を抱かせてしまったようだった。申し訳なさでいっぱいになる。

「それで……今日撮る写真とかって、アップしちゃって大丈夫ですか?」

俺のフォロワーの中には、俺がレンタル彼女のサービスを使おうものなら失望するという反応をする人もいくらかいた。彼女さんはそれに気を使ってくれているようだった。

俺は内心、葛藤していた。

この思い出を心の中だけに留めるか、しっかりと記録し感想を残すか。

最初はみんなにバレずに良い思いだけしたいという方が強かったが、彼女さんとの出会いがその心境に変化を及ぼしていた。

彼女さんは、俺のツイートに警戒心を感じながらもこうして依頼を断ることなく会いに来てくれて、さらには俺の小説まで読んでくれた。ここまで歩み寄ってくれようとする人とのデートを無かったことにして、安寧だけを享受しようとする姿勢が俺にはどうしても正しいとは思えない。VR非モテを拗らせてVRCレンタル彼女に逃げ、その事実からも逃げるなんて最低だ。

俺はその迷いを、正直に彼女さんに伝えた。

「じゃあ、最後に決めましょっか。会った人には、最後に必ず確認するようにしてますから!」

そう言って、彼女さんは俺に笑いかけてくれる。俺と彼女さんは、24時には解散しようと約束した。俺は二時間で決断し、頬にキスをしてもらえなければならなかった。

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「今度生放送で映画の話されるんですよね? 映画好きなんですか?」

映画好きVtuberたちによるコラボ生放送を数日後に控えた俺に彼女さんがこう聞いてくれたことから、まずは映画の話になった。

俺は勝利を確信した。

彼女ができたら俺がまずやりたかったこと。可愛い女の子と映画の話をする。俺が求め続けたもの。それが今、人生で初めて俺の目の前に顕然と表出している!

「まあ映画は……“ちょっとだけ”好きですね」

彼女さんが俺の太刀打ちできないハードコアシネフィルである一抹の可能性を考慮し、そう答えた。「VRChatでレンタル彼女やってます! 好きな監督は小津安二郎成瀬巳喜男で、よく行く映画館は神保町シアターです!」なんて言われようものなら、俺はそんな人の前で映画好きを名乗れない。

「え、じゃあ最近見た映画で面白かったのってなんでした?」

瞬間、思考が加速する。

最近見た映画。そう言われて俺は数日前に見た「TOKYO FIST」を思い出す。公開、1995年。監督、塚本晋也。今年の夏に初めて見て以来、何度か見返していた。

 

ここで嘘をついて、もっと話題の広がりそうな映画を選択するという手もあった。でもそれは俺の理想とする“彼女との会話”ではない。それに見ていないと決まったわけじゃない。「TOKYO FIST」は未見でも「鉄男」あたりなら知っている可能性も高い。

塚本晋也のTOKYO FISTです」

気がつけば俺はそう答えていた。

「え、どんな映画なんですか?」

「確か90年代半ばくらいの公開で……」

「あっ、じゃあ結構古い映画なんですね〜どんなお話なんですか?」

90年代の邦画が、古い……?

俺は動揺しながらTOKYO FISTを説明しようとする。やはりもっと無難な映画の名前を出すべきだった。しかもTOKYO FISTは内容をかみ砕いて説明するのが非常に難しい。

「つまりボクシングなんだけどこの映画においてボクシングというのはスポーツというより過剰に暴力的な殺人であり、塚本晋也の映画は常に都市と肉体を描いていることから考えるなら、殺される可能性のあるリングに上がるという選択を取ることは肉体を保有していることの証明なんですよ……」

「へ~すごい面白そう! 詳しいんですね!」

彼女さんはふんふんと言いながら俺の映画の話に耳を傾けてくれる。これが、彼女というものなのか……。可愛い声の美少女が俺の映画の話に楽しそうに聞いてくれる。人生で初めての、俺が求め続けてきた時間。彼女さんが相槌を打ってくれる度に、社会のあらゆる残酷さと薄情さに晒されて冷え切った魂の底が温められていくような心地になる。この時、俺は確かに救済されていた。

いくらか映画の話をした後で、俺は思わず口走ってしまう。

「なんかこういうの、彼女っぽいですね……」

「えっ?」

彼女さんの割とガチ目な“えっ?”という反応に俺は思わず「じょ、冗談ですよ~!」と帰す。彼女さんも「で、ですよね~」と笑う。彼女っぽさを感じていたの、俺だけだった……。

ちなみに彼女さんの好きな映画はバタフライ・エフェクトだそうなので、これからVRCレンタル彼女さんと話そうという方は事前に見ておくと良いと思います。

その後も彼女さんに俺の痛風を心配してもらったり(レンタル彼女に痛風の心配をされるの人生の最底辺感ある)、彼女さんのアバター改変や自作アクセサリーの話を聞かせてもらったりと、自分のアバターの話をしたり、ツーショットを撮ったりと優しい時間を過ごした。

会話の中で緊張しまくる俺に、彼女さんは「オタゴンさんって喋りやすいですね!」と笑いかけてくれた。ああ、美少女がこの俺に喋りやすいと言ってくれることがあるなんて。あの瞬間、俺は世界の全てに肯定されていた。

×   ×   ×

そうしてしばらく雑談した後、どこか他のワールドに移動しようという話になった。ワールドは一つおしゃれな場所さえ準備していれば問題ないと高を括っていた俺は完全に膝から崩れ落ちたが、彼女さんが行ってみたいワールドがあるという話になりなんとか難を逃れた。

これからレンタル彼女さんに会おうという人で俺のように「完璧なデートを演出してみせるぜ!」という人は、回るワールドを予め想定しとくとかっこつけやすいと思います。

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彼女さんが案内してくれたのは広いスキー場のワールドだった。カラっと晴れた日差しに照らされたかのように、透き通る白さの雪が一面に広がる。この広い、広いスキー場に俺たちは二人きりで立っていた。「私をスキーに連れてって」を思い出してアガる。オタゴンがサンタクロース♪ 間違いない。このVRに広がる銀世界が、俺たちのカップル感をぶちアゲてくれている。スパロボで例えるなら地形適正Sで命中率と回比率に上方の補正がかかってる感じだ。

彼女さんもここに来るのは初めてということで、流れるゴンドラや山の上の大きな雪だるまに興味津々という様子だった。かわいかったです。

さっそく二人で“いっしょに”ゴンドラに乗ることになる。二人でゴンドラに乗るとかいうカップル感の高すぎるイベントなど、恐らく俺の人生で二度とない。なのに俺は乗るのに失敗して、彼女さんを一人で送り出す形になってしまう。一人でゴンドラに乗ってる時はショックで自殺しようかと思ったけど、昇っていったところで彼女さんが笑顔で手を振りながら迎えてくれたのでやっぱり生きることにした。こんなに嬉しいことはない。まだ僕には帰れる所があるんだ……。ララァには、いつでも会いに行けるから……。

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ゴンドラで昇った先にはスキー板とストックがあり、これを使ってスキージャンプができるとのことだった。

瞬間、ひらめきの閃光が俺の脳にスパークする。

「怪獣のアバターだとギミック上手く作動しないことあるんすよね~」

俺はすかさず、そんな適当な嘘をついて美少女アバターとなる。昔は確かに怪獣アバターで椅子に座ろうとすると突然ワールド外に吹っ飛ばされることなどがあった。しかし今はフレンドの超蔟さんにボーンなど諸々を調整してもらったので、そんなことは一切ない。超蔟さん嘘ついてごめんなさい……。あまりにも自然な流れで美少女となった自分に心の中でガッツポーズしつつ、フレンドへの罪の意識に苛まれる。情緒不安定か?

「ええ~素敵な改変ですね。かわいい~」

美少女となった俺の目の前に彼女さんが近づいてくる。身長もほぼ同じになり、その顔を直視することになる。無邪気に俺の改変を褒めてくれる彼女さんの視線に心臓の鼓動が跳ね上がる。距離感が近くなり、さらに彼女っぽさのぶちアガりを感じる。

×   ×   ×

ストックを前後させるほどに、視界が勢いよく加速する。

VRとはいえ、雪山を駆け降りる高揚感が全身に駆け巡る。

ジャンプ台の先端が迫り、気づけば身体は宙へと吹っ飛んでいた。

瞬間、視界いっぱいに広がっていく青空。

その綺麗さに、思わず心を奪われた。

VRで未知の体験をする感動を、その青さが思い出させてくれた。

最近のVRChatでの俺は酒を飲んで狭い部屋に閉じこもるばかりで、こんなにギミックのあるワールドに来るのは久しぶりだったから。

スキージャンプを終えた俺に、彼女さんはこう言ってくれた。

「来れてよかった~! ありがとー!」

同じ体験をして、同じように感じていることが嬉しかった。

その後、俺たちは一緒にリフトに乗ってスキーを楽しみ、雪だるまやツリーの前で写真を撮った。そうしていると、24時はすぐにやってきた。あまりにも短すぎる2時間だった。

「最後にまた、ツーショットを撮ってもらっていいですか?」

俺がそう聞くと彼女さんは快く「もちろんです!」と言って俺の隣に立ってくれた。怪獣のアバターの時と違い美少女アバターでは身長がほぼ同じなので、横に並ぶと彼女さんの声に左耳をくすぐられているような気分になる。近づく横顔と頬。俺は何も言えず、写真を撮り終える。

「今日撮った写真、アップして大丈夫ですか?」

この期に及んで少し迷ってしまう自分が情けない。

「大丈夫です」

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VRChatを始めた時、特に理由もなく自分は変われたような気がしていた。HMDを被ってアバターを纏った俺はVtuberで人気者で友達がたくさんいる男で、現実のひたすらに仕事ができなくて将来に展望のない男じゃない。そうだったはずなのに、結局は“モテない”という現実と同じ孤独と寂しさに自分から囚われてしまった

俺は数日前、5年間も在籍していた大学をやめてしまった。

まともに通ったと言えるのは最初の1年だけだった。だからVRCレンタル彼女を借りる時も、正直ヤケになっていた。俺は大学もまともに卒業できない社会の落伍者だから、VRChatという場所にまで逃げたあげくレンタル彼女なんてものに救いを求めてしまうし、それはしょうがないことに違いない。

VRChatはいわば現実に対する偽物の世界だ。そんな偽物の中で、さらに偽物の彼女とデートをする。それは仮想の中の仮想だ。ここまで嘘が積み重なった中でなら、俺も何かが変わるかもしれないと思った。頬にキスをしてくれと言える男になれるはずだった。

でも結局、レンタル彼女は俺が思うほど嘘じゃなかった。普通にアバターの中には人間がいて、感情や意思があった。当たり前の話だ。2時間の中でそれを知ってしまうと、キスをしてくれなんて頼めるわけがない。

結局俺は、部屋に籠って酒に溺れて誰かに縋るようなダメ人間のままだ。構ってもらいたいくせに本当に言いたいことは何一つ言えない。そもそも会って二時間もない人間にキスをねだろうとするという人格を23歳で保持している時点で(しかも痛風持ち!)俺は生きてちゃいけないやつなんだ。俺は俺が嫌いだ。

別れ際、頬にキスをしてほしいと言えない代わりに、俺は彼女さんにこう聞いた。

「今日のこと、ブログに書いていいですか?」

「ええ!? ありがとうございます! もちろんです!」

VRの中でレンタル彼女を借りる。それは恐らく貴重な体験だけれども、こうして言語化しようとする人は少ないだろうと思う。仮想の中の仮想はという感覚は、こうして言葉に残さないとすぐに曖昧な記憶になってしまう気がした。俺は今日のことを忘れたくない。だから今、こうしてブログを書いている。そのためなら軽く褒めそやすような生ぬるいものじゃなく、本気で書かなきゃ意味がない。あと話題的にバズれそう。

「また連絡くださいね! ぜひぜひ遊びましょう~!」

彼女さんは俺がワールドから移動するその瞬間まで、笑顔で俺を見送ってくれた。

俺はいつも酒浸りになるホテルのワールドまで移動する。HMDを外して今日の事をひたすらにメモに取り、それからもう一度「ぽあだむ」を聞いた。それから俺は、この部屋から出て友人たちが集まるワールドへ遊びに行くことにした。

×   ×   ×

後日、彼女さんから連絡が来た。話した映画のタイトルを忘れてしまったたので教えてほしい、とのことだった。俺はデートしてくれたことへの感謝の言葉と共に「TOKYO FIST」のタイトルを教えた。

きっとこれから、俺は「TOKYO FIST」を見るたびに彼女とのことを、そしてツーショットの時にこっそり盗み見たその横顔を思い出すんだろう。

仮想の中の仮想でも、思い出は「TOKYO FIST」が本物にしてくれる。